非翻訳RNA関連

非翻訳RNA (ncRNA) とは

ヒトゲノムが解読された結果,遺伝子の数は22,000個と同定され,タンパク質として翻訳されるのはゲノム全体のわずか2%であることが判明しました.しかし,その後のトランスクリプトーム解析により,実は全ゲノムの約7割がRNAに転写されており,その中の5割のRNAがタンパク質に翻訳されず (non-coding RNA; ncRNA),独自に機能を果たしている可能性が指摘されました.

例えば,snRNAやsnoRNAは特定のタンパク質とリボヌクレオプロテイン複合体(snRNP,snoRNP)を形成し,RNAスプライシング やRNA修飾に機能します.さらに,micro RNA(miRNA)は,Argonauteなどのタンパク質とRISC複合体を形成し,特定の遺伝子のmRNAに相補的に結合し,これを切断すること で,遺伝子の発現を調節しています(RNAi).しかし,ほとんどのncRNAに関して,その作用機序は未だ明らかではありません.

転移RNA(tRNA)の修飾とアミノアシル化

最も機能解析が進んでおりかつ細胞内含量の多いncRNAは転移RNA(tRNA)とリボソームRNA(rRNA)であり,大腸菌からヒトにいたる までタンパク質の翻訳過程で中心的な役割を果たします. tRNAは,タンパク質合成の際に,mRNA上のコドン(遺伝暗号)とアミノ酸とを対応させるアダプターの機能を担います.その機能の発現のために は,5'および3'側に余分な配列をつけた状態で合成されたtRNA前駆体から,余分な部分を切り落とし(プロセシング),さらに様々な化学修飾がほどこ され(転写後修飾),かくして成熟したtRNAに,20種類のうち特異的なアミノ酸が正確に付加する必要があります(アミノアシル化).

当研究室ではこれらの酵素の,主にtRNA との複合体の構造解析を行い,さらに構造に基づいた機能解析を行うことで,遺伝暗号の翻訳メカニズムを理解することを目指して研究を進めています. tRNAは古典的なncRNAですが,そのタンパク質複合体の構造生物学は,他のncRNAの作用機構に共通した基盤的メカニズムの理解につながると考えられます.

他のncRNAについて

かつて生命が誕生した原始の時代,すべての生命反応はタンパク質ではなく核酸(RNA)が担っていたと考えられています(RNAワールド仮説).生 命が進化して,生体反応のほとんどをタンパク質酵素が触媒するようになった現在でも,RNAワールドの名残が存在します.

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たとえば,タンパク質合成工場で あるリボソームやtRNAの5’末端のプロセシングに働くRNase Pは,RNAが触媒機能を持つRNA酵素(リボザイム)です. さらに,真核細胞では,テロメレース,スプライソゾーム,LINE,RISCなど酵素反応の基質特異性をRNAが決定するリボヌクレオプロテインが存在し ます.これらのリボヌクレオプロテインでは,ハードウェアーに相当するタンパク質酵素に対し,ソフトウェアーであるRNAがカセット式にはめ込まれること によって,リボヌクレオプロテインが基質特異性を獲得し,ソフトウェアー(RNA)に支配された化学反応を触媒することができるようになると考えられます.

当研究室では,特にRNA干渉に注目し,様々な真核生物の体細胞および生殖細胞においてsiRNAあるいはmiRNAがDicerからArgonauteタンパク質にローディングされ,mRNAの切断あるいはヘテロクロマチンを形成するに至る過程を構造生物学的視点から追及し,解明することを目指しています.

これまでの研究成果

small RNA関連

アミノアシルtRNA合成酵素

tRNA修飾/成熟酵素