大学院生募集

濡木教授から一言

 私たちは、単に生体分子の立体構造を視るだけではなく、立体構造を決定してはじめて発展していく新しい生物学を目指して研究を楽しんでいます。ですから立体構造解析の先には、ニューロサイエンスあり、創薬あり、システムズバイオロジーあり、と夢はつきません。新しい生物学を開拓していくためには、我々の十八番であるクライオ電子顕微鏡・X線結晶構造解析・計算機シミュレーション・生化学だけでなく、NMR、X線小角散乱、1分子イメージング、電気生理学、細胞生物学、遺伝学などの技術を、なんでも使っていきます。そのためには、国内はもちろん海外の様々な研究者と共同研究を展開し、異分野を融合して様々な角度から構造生物学を展開させています。

 しかし、クライオ電顕単粒子解析やX線結晶構造解析により静止した構造を決定するだけでは、本質的な生命の分子機構には迫れません。なぜなら、分子は動いてこそ機能を発揮するのですが、そのような柔軟な構造は分子ごとに形が違うので、上記のような空間平均化する構造解析法では構造が消えて(disorderして)しまうからです(AlphaFoldのような経験学習に基づく方法でも不可能です)。また、個体は細胞が組織、器官を形成し、それらが集合して全体として秩序ある生命を営んでいます。分子だけに着目していては、生命の本質を見失う危険性があります。そこで2025年度から、濡木研究室において、ハイスペックな高速原子間力顕微鏡を導入し、1分子のダイナミクス観察を始めました。その延長には、液-液相分離構造や天然変性構造のような極めて生命に重要な構造の構造機能相関を理解しようという意図もあります。そして、元々生物多様性が好きな私は、新設した閉鎖的な生物飼育室でゼブラフィッシュの飼育を始めました(昆虫、サンゴなども追って始めます)。その意図は、我々が開発した世界初のゲノム編集ツールの威力を確かめるだけでなく(さらには医薬応用、農作物品種改良、地球温暖化問題の解決を目指します)、研究標的遺伝子のノックアウト、発現制御、変異導入による個体生命への効果をオミクス解析まで含めて明らかにする、脊椎動物特異的な内因性超分子複合体の単離・解析、ドラッグスクリーニングに展開できるからです。

 また、20世紀までの生物学は受動的な研究でした。例えばニューロサイエンスも電気生理学・イメージングが主体、分子生物学も放射線やアルキル化剤による偶発的な変異体作成に基づく遺伝子の発見、構造生物学も分子機構を解明して教科書を塗り替えることが主体の受動的なサイエンスでした。私は21世紀のバイオロジーは、自然に挑戦する能動的なサイエンスたるべきであると思っています。例えばニューロサイエンスにおいても、2012年に我々が立体構造を解明したチャネルロドプシン(ChR)を用いた、光遺伝学という能動的にニューロンの役割を同定する手法が台頭してきました。分子生物学においても、2014年に我々が核酸複合体の立体構造を初めて解明したクリスパーCas(CRISPRa)を用いて、ゲノムワイドに遺伝子探索をする手法に取って代わられつつあります。構造生物学自体も、構造に基づき、最高のケミカルバイオロジーである創薬を通じて、自然に挑戦するサイエンスたるべきだと思っています。濡木研究室では、バイオインフォマティクス・合成生物学を駆使した遺伝子探索、ChRの人工分子進化、抗老化・睡眠・難病治癒に対する創薬研究を始めました。3年前に東大で立ち上がったワクチン開発拠点UTOPIAにも参画し、ウイルス研究も行っています。

 私は、基礎の基礎は応用につながると考えています。創薬研究を社会に実装するために遺伝子治療と低分子創薬の2つのベンチャーを立ち上げました。幸い前者は2020年に東証上場を果たしました。最近日本全体で、バイオベンチャーの起業機運が高まっておりますが、私は、この10年のビジネス経験に基づき、日本という特殊な文化のもとで起業するための鉄則10カ条を発案しました。

 研究者も人間です。人間はopen mind(正直)にコミュニケーションし、食や音楽を通じて心を通わせるべき、という信念のもと共同研究の輪を日夜広げています。オリジナルな研究により新しい発見が得られた喜びと興奮は、何ものにも代え難いものです。生命現象のメカニズムを原子のレベルで理解できる喜びを分かち合いましょう!


濡木研究室では大学院生を毎年数名受け入れます

当研究室では、アカデミック分野あるいは企業で活躍する研究者の育成を主眼においています。

研究者として活躍していくには、まず 「基礎的な知識と実験研究技能の習得」が必須です. 特に、構造生物学の分野における研究では、生物学だけでなく、物理・化学等にわたる幅広い分野の知識が要求されます。当研究室ではこれらについてより深く学ぶことができます。

一方で、上記の基礎力に加えて、 「自発的なモチベーション」も重要です。 それは,今自分が行っている研究の世界情勢を原著論文など自発的に調べて把握して行くとともに自ら仮説を立て、その解明へ向けた実験を精力的かつ正確に進めていける能力といえます。 そうした研究者を育成するために、我々スタッフは学生と積極的にディスカッションし、国際競争に負けぬよう正確で迅速な論文の発表に尽力し、成果をあげた学生には国内外の学会でも積極的に発表してもらうようにしています。

現在,当研究室からの卒業生は,大学・研究所のみならず,企業の研究所など様々な場面で活躍しています. 様々な分野からの意欲的な学生の参加を歓迎します。

研究テーマについては研究内容を参照してください。

研究室見学を希望される方,当研究室における研究に興味のある大学院受験予定者は、まず研究室へのアクセスに記してある連絡先にメールで連絡してください。


入学試験について

東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻

修士課程選抜試験については、 生物科学専攻のホームページを参照してください。

卒業生の進路

  • 米国 Memorial Sloan-Kettering Cancer Center
  • 米国 Oregon Health & Science University
  • 米国 Ohio State University Assistant Professor
  • 英国 Medical Research Council, Laboratory of Molecular Biology
  • オランダ The Netherlands Cancer Institute
  • 東京大学分子細胞生物学研究所准教授
  • 奈良先端大学独立准教授
  • アステラス製薬(株)
  • 協和発酵キリン株式会社
  • 中外製薬株式会社
  • キッセイ薬品工業
  • AGC旭硝子
  • キヤノン
  • 凸版印刷株式会社
  • 川崎市役所
  • 三菱商事
  • 三井住友信託銀行
  • 東京証券取引所
  • JR東海
  • 経済産業省
  • (順不同)